あなたのリュックは
少し前のこと。
早朝の駅の高架下で、ふたりの男性が毛布にくるまり、寄り添うように寝ていた。私が通り過ぎるとき、ちょうどもぞもぞと起き出すところだった。
年配の男性が寝たまま口に咥えた煙草に、若めの男性がライターで火を付ける。それはとても穏やかな顔だった。
ふたりの日常かもしれないその光景が、私には美しく感じた。
あの人は、あの時、どんなことを考えて、どんなことを思っていたのだろうか。
とある日の、午前3時。
岡崎の街を窓越しにぼーっと眺めていると、さっきまで外のベンチに座っていた男性が、おもむろにこちらに向かって歩いてきた。あ、目があったかも、と思ったのは勘違いで、彼は窓の横においてあった灰皿の中身を慣れた手つきで確認して、去っていった。
吸い終わった煙草がないかを確認するのが日課なのかもしれない。
あの彼は、何を思っていたのだろう。はたまた、何を思わないようにしていたのだろう。
明るくてあたたかい世界では想像できないような光景に出くわしたとき、そこから目を逸さない人でありたい。アンダートーンを、補正せずに受け止めたい。
表面上では見えないものが、ひとの背景には必ずある。いつも楽しそうな人だって、いつも怒っている人だって、軽そうな人だって、真面目そうな人だって、きっと奥の方に埋まっているものがある。意図的に埋めているものもある。
そうである可能性を、想像できる人でありたい。
「一緒に解決」は、出来ないかもしれない。深いパーソナルなことほど、きっと、出来ない。それでも、どんな景色をみているのか、想像しようとすることは出来るかもしれない。
ぽつ、ぽつ、と語られる言葉が、私にも染み込んで、一緒に流れ出る。たったそれだけのことしか出来ないけれど、それでいいのかもしれない。
人はみんな、透明のリュックを背負っている。大きさも、重さも、それぞれバラバラで、他人からは見えないリュック。ときどき、とんでもなく大きなリュックを背負っている人が、その重さに潰されそうになっている。教えてくれなければ気が付かなかったかもしれないリュックの大きさに唖然として、思わず問いかける。「今まで、一人で背負ってきたの、、?」
ほんの少しだけ、リュックを下ろして、体を伸ばして、よし!と立ち上がるまで。それまで、待っていてくれる場所が、カフェなのかもしれない。
カフェは、きっと、そういう役割を担える。きっと、出来る。それは私にとっての希望なのだと思う。
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コメント4件
久しぶりに覗いてしまいました(^_^;)
このブログを初めて知ったのはコロナ禍になる前。
仕事の内容に変化が生じて、はじめての場所で、初対面の人達、やった事ない業務といった精神的に参ってた時期でした。
文章から感じた他者への気遣いの出来る繊細な女性のイメージ。
他人の日記を盗み見してる罪悪感を感じながら、その文章に共感を覚え思わずコメントを入れてしまった(笑)
そして豊スタでのイベントに出掛けて初めてお目にかかりコーヒーをいただく。
そのとき頼んだコーヒーに付けてくれた手書きのコメント入りカップホルダー。いまだに大切にとってあります….ちょっとキモいかね(^^;
でも、あの時、飲み終わった後、なぜだか?捨てれなかった。
その言葉がその時の自分の心にホッと一息つけてくれたのだと思う。
久しぶりにそのカップホルダーを見たら、このブログを思い出しました。
やっぱりこのブログの文章、オレ好きなんだなぁ。
ご自身の伝えたい想いをしっかり表現する中、読み手である他者へのきめ細やかな気遣いを感じます。
PS. ご結婚されてお子様も!おめでとうございます。
ウチは3人の子供達(2姫、1太郎)とラグビーを通して毎日賑やかに生活してます。
また、コーヒーいただきに行きます(^o^)/
煙草のくだり、映画のシーンに有りそうな感じですね
午前3時に知らない男の人が自分の方に向かって歩いて来る…ちょっと目を背けて合わせない様にしてしまうだろうな
彼らにとって日常的な事ならば、こちらの存在など特に意識していないのかもしれません
こちらが勝手に意識し過ぎているだけなんだろう
透明なリュック……なるほど、重さに耐え切れなくなり押し潰される前に一度下ろせば良い
でも重たいリュックはまた持ち上げて背負うのは大変だから私は重たいリュックを背負い直すのではなく、ショルダーバッグをちょこんと肩に引っ掛ける事にします
重くなり過ぎたら勝手に肩からズリ落ちて、ちょくちょく休憩出来そうだからねʬ