ことばの色の探求
このタイミングで口に出すこの言葉は何色が適切だろうか、とよく考えている。
「こんにちわ」や「ありがとう」に始まり、「ごめんなさい」「ちょっと待ってね」「大丈夫」「もちろん」などなど。
営業中、ずっと考えている。とくに「初めましてのお客様」になるほど慎重に。
ことばの色とは、声の高さやテンポ、言い回しや「間」などを総称して、私が勝手に心の中でイメージしている。相手や状況によって適した色はその都度変わる。
初めましてのお客様への「こんにちわ」だったら、少し温かみを感じるけど安心感のあるアイボリーがいいかなあ、とか。そこで相手との会話がちょっと弾んだり、少しお話をしたいような心持ちで来てくれたような感じがしたら、最後の「ありがとうございました」や「いってらっしゃい」はほんのちょっとオレンジを混ぜてもよさそうだなあ、とか。
反対に、会議の最中でコーヒーブレークをしに来てくれた人や、考え事をしていそうな相手であれば、クリアなアイスブルーくらいスッキリとした感じがいい。声の大きさはほんのちょっと控えめに、あまりゆっくりとした話し方はせず、その代わりしっかりと目を見る。思考の邪魔にになりそうな「音」ではなく、目でありがとうを伝える。
常連さんになると、基本的には相手の色に合わせる。
黄色の元気なお客さんには、こちらも黄色系のトーンで接する。落ち着いた緑色の客さんには、こちらも落ち着いた緑色で。少しグレーが入り混じったような気分の人には、同調しつつも少しだけ白色を混ぜてあげたい。逆に、少し甘えて「今日はわたし水色です感」を出すこともある。
昨日、とても良い雰囲気の小さな本屋さんで立ち読みをしていたら「お客様!入店前には必ず消毒をお願いします!!!」と、注意看板のような声がした。鮮明な赤色、ゴシック体の太文字だ。店の雰囲気に適した色ではない声は、違和感として耳に残る。
せめて遠くから大きな声で言わずに、そっと近づいて抑えたトーンで、さも申し訳なさそうに「消毒お願いします」と伝えたのならば。おそらくほとんどの人が「あ、すみません」と言う感じでスムーズに時間は流れただろう。(忙しすぎて声を張らずにはいられなかったのなら、まだしも)
注意、というのは「注意される人」だけでなく、「その場に居合わせた人」への影響もある。(私もついついその視点がおざなりになってしまいそうになるので、戒めとして記しておく)
突如放り込まれる声色爆弾は、たいてい「店主ではない人」から発せられることが多い。正義感の強いスタッフだったり、お節介な常連さんだったりがお店のことを思って他のお客さんに注意してくれることもある。そう考えると、放り込んでしまった人が必ずしも「悪い」わけではない。
昨日の本屋さんで言えば、発信者はおそらく「ちょっとの間、店番を任されたお友達」だった。お店のルールを守ってもらわなけばいけない、という正義感から発した声だった。
雇っているスタッフ、だとしてもその感覚を共有するのは難しい。言葉を「正確な情報伝達の手段」だと認識しているスタッフであれば、いくら伝えたところでわかってもらえることはないかもしれない。
家族やお友達など、給料が発生していない状況であればなおさらだ。手伝ってもらっている以上、言いにくい、言えない。「無料で手伝ってもらう」というのは、「労働力+1人」というメリット以上に大きなリスクを携えている。
時折、お店を手伝ってくれる女の子がいる。
もともとは、どうしても手伝って欲しい時に私からお願いしていた。今は、自ら手伝いを名乗り出てくれる時があって、ときどきSTREET COFFEE&BOOKSの箱の中に2人でちょこんと並んでいる。
どうしても手伝って欲しい時があった、とはいえコーヒーが淹れれば誰でもいいというわけではない。先述のように「違和感のある色の大爆発」という事故が起こる要因はなるべく無いようにしておきたい。要因を詳しく見ていくと「強すぎる正義感」や「相手の様子を感じ取れない(取ろうとしていない)感受性の欠如」や「お店の方向性に対する理解のなさ」であるとも言える。
そこを踏まえた上で、私の彼女に対する信頼感は共に時間を過ごすごとに大きくなっている。お店の色を理解した上で、自分の色を大事にしながら、相手の色を感じ取って上手になじませている。余白をふんだんに含んだ営業スタイルを「よし」としてくれる。私以上に、様々なことを感じ取ってくれているのが、隣にいても伝わってくる。
そんな子が近くにいてくれるのは、本当にありがたいことだ。(Yちゃんいつもありがとう!)
ことばの色や、ことばの温度。大多数の人にとってどうでもいいことなのかもしれない。ちょっとディティールがずれていたところで、何か大問題が起きるわけでもない。それでも、そのちょっとした違和感を無視したくない。
その日その日で風景が変わるように、その日その日で人の状態も変わる。その都度、いちいち微調整して、その場に適した色を模索していきたい。街の風景に馴染むような、そんなお店でありたい。
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コメント5件
のぞみさん
ことばの色の探求、面白くて面白くて、
知らなかったけど、
すっごく知りたかったこのせかいのひとかけを
しることができて、わぁぁぁぁって嬉しくて、
これから何回も何回も
読ませてもらおうと思いました。
ここに書かせてもらっていいのか迷ったのですが、
お店の中に入らせてもらっている時、
わたしはおきゃくさまに会えるのが
すこしどきどきしながらとても嬉しいです。
でも、きてくれる方はどうなんだろう、と考えます。
わたしはもうご存知かと思うのですが、
ストリートコーヒー&ブックスさんがとっっっても大好きです。いくと汚いと思っていた世界がきらめいてみえたりします。落ち着きます。息がしやすくなります。居場所ってかんじがします。なにかから守られているかんじもします。
そしてのぞみさんがとっっっても大好きです!!!のぞみさんに会えてすごく嬉しいです。いつも、本当にありがとうございます。
そして、のぞみさんに会いたくて来られる方が
たくさんいると思うので(自分もそのひとり)
そこにもうひとり女子がいたら、?
うーん、わたしだったらすこし複雑な気持ちにもなるかもしれない、と
すこしディープな話をしたかったけれど、
話せないかもしれないし、
うーんうーん、
でも、わたしがいるといやな気持ちになるひとがいるかもしれないから、
お店の中に入らせてもらうのはやめなきゃ、
とは決意できなくて、
それは、のぞみさんとおきゃくさんの間に流れる空気、
みたいなものを間近でかんじさせてもらっているときの、
なんとも、ぁあ、ここで生きたいって気持ちとか、知りたいって気持ちとか、
目のまえの方にコーヒーを実際に淹れさせてもらっているときの
なんともなんともはぁぁぁって嬉しい気持ちとか、
わがままだなぁ、と思うのですが、できたら手放したくない、大切なとき、です。
お店の中に入らせてもらうときは、
おきゃくさんとのぞみさんがつくってくれた余白に、そっとおじゃまして、
全力でそのときの色をかんじて考えさせてもらいながらお店の中にいさせてもらえたら、とても嬉しいなと思っています。
また、
自分で気がつけるようにいま一度戒めるのですが、ちょっと違うことをしていたら、教えてくださいm(_ _)m
、、
超絶長々と失礼しました(汗)
あの時の木のように優しい方、のりさんとまたお会いできたら嬉しいです!
色って表現いいね
確かに、同じ事を伝えるにも
ちょっと考えるだけで、相手に伝わる
感じ変わるよね。
僕は何色かなぁって気になりました
Yちゃんはきっとあの子かな?
一度会っただけやけど、
雰囲気のいい素敵な人やね。
また会えたら嬉しいな
よろしくお伝えください‼️