問いの効能

探していた草むらとは、全然別の見当違いな場所から落とし物が見つかった、というのはよくある話である。

(絶対このあたりで落としたんだよなあ)という場所をぐるぐる探してもなかなか見つからず、忘れたころに別の場所から出てくるあの現象に名前はついているのだろうか。

先日、たまたま誘ってもらった「カレー研究家/水野仁輔さんのトークショー」が、私にとってまさに「あの現象」だった。

水野さんは、カレーに対してずっと問い続けている人だった。

(なぜ、俺は今玉ねぎを炒めているのだろうか。なぜ玉ねぎは茶色になっているのだろうか。茶色になる玉ねぎの中では何が行われているのか。なんの成分がどのように変化するのだろうか。なぜ俺はトマトを煮詰めているのだろうか。トマトが…スパイスは…水分は…)みたいなことを、カレーをつくっている間中、ずっと考えているらしかった。

なぜ?なぜ?問えば問うほどに、答えがわからなくなる。問いがわき起こったときに連れてくるのは、答えではなく新たな問いである。

そのトークショーで実践としてつくっていたスパイスカレーはとてもシンプルなカレーだった。

「隠し味に逃げない」

なるほど、解答だってシンプルだ。

「必要最低限の材料で美味しくつくれるようになること。技術を上げたいときに、小手先のテクニック(隠し味)はかえって邪魔になる。 」

あぁ〜。やっぱり。そうだよなあ、、グサリとなにかが刺さった気がした。

私たちは、ついつい足し算的に「より良くなる方法」を考えがちだ。コーヒーもそう。「よりよい道具を手に入れたら、もっと美味しくなるのではないか」「なにかを足せば、もっと美味しいに近づけるのではないか」そんな風に考える。

いわれてみればサービスだってそう。「必要最低限のサービス」で満足が得られなければ「より便利なサービス」が必要だと考える。でも、はたして本当にそうか、、?

本当に、今あるシンプルなアイテムでやれることをすべてやっているのか。ハードのせいにしているところはないか。ソフトの成長をもっと考えるべきではないか。他責にしていないか。削げるところはないか。不必要なものが本来大切にするべきものを「見えにくく」していることはないか。

「隠し味に逃げない」とは、きっとそういうこと。最初に隠し味を覚えて、自分のカレーを「おいしい」と勘違いし「満足」してしまえば、それ以上の成長はない。

手っ取り早く良くしたいのであれば「秘密の隠し味」を使ってもいいのかもしれない。だけれど、それは本質的な成長を妨げる。

もうひとつおもしろかったのが、将棋の棋士の名言を用いて「将棋はリカバリーの連続だ、カレーもリカバリーの連続だ」という話。

プロは、自分の定めたゴールイメージに対してのその都度の「正解」の動きを選びぬいていかなければならない。昨日と今日、まったく同じではない環境のなかで小さな異変にすぐに気付き、すぐに修正する能力。周りが「あっ、」と気付いたときには、もう直っている。誰よりも早く察して、直す能力。

これは常々コーヒーを淹れるときにも思う。「あ、いつもより温度の下がりが早い気がする」「さっきまでよりほんの少し豆が細かい気がする」「エスプレッソの感触が変わった気がする」など、数値にあらわれないような微差に気付くこと。気付いたら、その都度、瞬時にリカバリーすること。

数値にとらわれると逆に見落としやすい気がする。ほぼ直感的な「ん?」に対して、なぜかを考えて修正すること。

それにはきっと経験が必要で、ただ、経験の年数だけじゃなくて質も必要な気がする。つねに「なぜ?」を問うことは、きっとこういうところに繋がる。

コーヒーにも当てはまるけれど、自分自身の体調やメンタルに対しても当てはまる。「ん?」というときに、すぐにリカバリーすること。微差のときになるべく早く調整すること。

そのためには、ベストなときに自分を知っている必要があるし、微差に気付ける余裕があるといい。

まわり道のように思えることが、案外いちばんの近道かもしれない。思いもよらないところから、探しものが見つかることもある。

ここ数年、息子の「なんで?なんで?」攻撃を毎日浴びているのだけれど、それはとても意味のあることであるように思う。なんでそうなるの?なんでこうするの?そういう未来ある好奇心を、大人が奪うことは罪深い。

水野さんは、自分のことを「なぜ?なぜ?と問うてしまう面倒くさい人間」といっていたけれど、もっともっと面倒くさい人間が増えてもいいのかもしれない。自分も含め。

私も、世界へ問い続けていきたいと思う。面倒臭さを楽しんでいける人たちとともに。

2022年07月10日 | Posted in ブログ, 最近の出来事, 私の生き方 | | 2 Comments » 

関連記事

コメント2件

  • 松島 馨 より:

    見当違いな場所から落とし物が見つかったり、他の人に探してもらうと一瞬で見つかったり…なんて事ありますよね
    トークショーでそんな嬉しい「あの現象」に出会えたのですね
    「あの現象」に名前があるのかは知りませんが、井上陽水の「夢の中へ」を思い出しました

    カレー作りで「隠し味に逃げない」、なるほど成長を止めないって事なのですね

    「将棋もカレーもリカバリーの連続」→「人生もリカバリーの連続」ですね

    つむちゃん、こちらが疑問にも思わない事象を「なんで?なんで?」攻撃してきますよね〜
    忙しい時は大変でしょうが、こちらが解らない事でも一緒に考えてあげるのが大切ですね

    • NOZOMI より:

      松島さん

      隠し味は知っているに越したことはないかもしれないけれど、
      本当に極めようと思っていることであれば、逆に成長を遅らせる因子になりそうですね。

      つむちゃんと話すのは、本当に楽しいです。
      ワイパーの動きは左右で違う!なんで?といい出したときにはびっくりしました@_@!

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です