からっぽのうつわ

先日、いつも置いてあるシェアマネーの器の中身がからっぽになる(持っていかれてしまう)という出来事があった。
いつかはそういうこともあるかもしれない、と思っていたけれど、2年ほど続けてきて初めてのことだった。入れてくれた人の気持ちを考えると、心底苦しい。
そもそもシェアマネーの仕組み自体が、かなり性善説的な、信頼だけで成り立っていたような仕組みであったため、むしろここまでそういったことが起きなかったこと自体がすごいことだったのかもしれなかった。
からっぽの器を眺めながら、これはまるでひとつの街のようでもあるし、人間関係のようにも感じた。
各々が、自分の欲しいもの、利用価値のあるのを奪っていった結果、中心がからっぽになり、外枠だけが残り、空虚だけが残される。中心が空っぽの空虚なうわべだけの人間関係、といえば安易に想像がつくかもしれない。
反対に、自分の持っているものを一部置いていくような、差し出していくような、そういったことであった場合、器の中はからっぽにはならない。受け取っていく人がいて、贈っていく人がいて、それらは循環していく。(ちなみに、差し出す、というのは物理的なものとは限らない。思いやりや笑顔、配慮や気遣いといった側面のほうがより重要だったりもする。)
関係性に名前がついていなかったとしても、それらは内側から溢れ出るような濃度を持っている。
街の中で、みんなが奪い合えば、中心は空洞化する。
みんなが奪い合わずにどうぞ、と差し出しあえば、受け取りあえば、空洞化ではなく循環が起こる。
我が家の息子はお肉が大好きなのだけれど、たとえば大皿に乗った唐揚げを、我先にと自分の陣地(取り皿)にたくさん入れてしまえば、パパも負けじと自分の陣地に移そうとする。その時、食卓は殺伐とする。(なにしろ、みんな自分のことで精一杯なのだ。私からしたら、息子の食い意地はそれはそれで微笑ましく愛おしいのだけれど)
みんなの様子を見ながら、ゆっくりと奪い合わずに気遣いあって食べる唐揚げは、きっと楽しい。たくさん食べたい、という欲求があったとしても、ほんのすこしの”周りへの配慮”があれば、誰もが気持ちよく居られる。誰も奪わない、大丈夫。そういう安心感があれば、心から物事を楽しむことができる。
シェアマネーを持っていった人は、もしかしたら、とってもお金に困っていたのかもしれない。もしかしたら”シェア”という言葉を”フリー”のような意味合いで、持っていっても良いもの、と認識したのかもしれない。
もし困っていたとしたら「困っています」と言い合えるような関係をつくれていなかった私の未熟さでもある。事象はあわせ鏡。起こった出来事から、自分たちの姿もみえてくる。
当初、シェアマネーは「空っぽになったら終わるときかもしれない」と、思っていた。循環しなかった、という検証結果を受け止めるべきだ、とも。
だけれど、空っぽになったあと、何が起こるのか、空っぽになった後も何かが起こるのではないか、とどこかで希望を持っている自分もいるのだった。(希望を見いだす、ということについてはどこまでも貪欲だと我ながら思う。)
3月8日。先週の土曜日、影山知明さんが豊田市に来て講演をしてくれた。影山さんは”ゆっくり、いそげ”の著者で、”奪い合う経済”ではなく、”贈り合う経済”という概念を10年前の私にぶちこんでくれた。
それは、間違いなく私の人生を豊かにした。
”そんなのは理想論だ”と諦めず、毎日1mmづつ着実に進むことが実は最短ルートだったりする。今、街の中に必要なのは、まさにその視点ではないのか、と思う。
もし、どこかでみかけたらぜったいに手にとって読んでみてほしい本です。(STREETにもROJIにも大体いつも置いてます。)
そんなわけで、とっても良い週末でした。今週も頑張りましょうー♪
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コメント4件
「洗脳」と「行動デザイン」の違いは「力づくで他の選択肢を排除すること」と「他の選択肢も残しながら自分の意思で選択してもらうこと」と理解してます。
そう考えると「行動デザイン」の方が高度な設計が必要で、納得できる意図の説明、行動しやすい設計、そして提供者との信頼関係が必要になるんだと思います。
2年間も続いたのはこれらがうまく機能していたからだと思いますし、空っぽにした人にはこれらの何かが届かなかったんだと思います。
行動デザインって、難易度高いけどすごく興味深いです。
シェアマネー消失…お店が無人になったタイミングなんでしょうね
人の目が有るのと無いのでは「持って行き易さ?」は随分違いそうです
持って行ったのは子供?大人?、お客さん?通りすがりの人?、またこのお店にお客さんとして現れるの?、色々考えてしまいます
シェアマネー、たまに使わせて頂いたり、入れさせて頂いたりしているので「このシステム止めます」ってなっちゃうのは寂しいです
「ゆっくりいそげ」、1年くらい前?に読んでました
これ読んたら、皆さんにも読んでもらいたくなりますよね
素晴らしい本です
あ、買ってません…影山さんごめんなさい